新人は抜擢しない。潜龍用うるなかれ。(易経)

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本日も大切な教えを易経から引用したい。

「潜龍用ちうるなかれ。」

(『易経』より)

潜龍とは、まだまだ潜っていて地表に出ていない龍のこと。

潜龍はこれから勉強し、経験を積み、力をつければ、いずれは飛竜となって活躍していく。

会社でいえばまだまだ新入社員のような存在である。

易経では、この「潜龍」を用いることを凶として戒めている。

 

なぜ、潜龍を用いてはいけないのか?

一つ目の理由としては、まだ力不足であり経験不足だから。

この段階で、抜擢してしまうと、当然ながら高確率で失敗を経験をする。営業であれば、お客さんに迷惑をかけてしまうかもしれない。そうすると会社のブランドイメージも棄損してしまうだろう。

と同時に、新人の自信喪失につながり、再起するのが難しくなってしまうかもしれない。変なトラウマになってしまう可能性もある。

二つ目の理由としては、調子に乗ってしまうから。

まだまだ実力不足なのに、大抜擢してしまうと「自分の実力である」かのように錯覚してしまう。そうすると、勉強することや努力することを怠ってしまうかもしれない。周囲も良く思わず、潰しにかかってしまうかもしれない。

だからこそ、例え、力があったとしても、潜龍は用いてはいけないのである。

 

昔、起業したばかりの若い頃、とある有名経営者からお仕事のお誘いがきた。その方は、本も複数出していて、世間ではカリスマ的な存在として崇められていた。その有名社長から誘われて、若造の私は嬉しくないわけがない。天に昇る心地とはまさにこのこと。「大抜擢」といえよう。

だから、若造で甘ちゃんの私はこのことを「自慢」したくなったのである。その「有名経営者からスカウトされた」とか「一緒に仕事をしている」ということを。

なので、その社長に「一緒に仕事をしていることを公に発表してもいいでしょうか?」と尋ねてみた。「もちろん」といった返答が返ってくることを期待していた。

が、返答は予想に反して「NO」だった。

その時は若造の私は意味が分からなかった。が、今ならわかる。まさにその有名社長は「潜龍用いるなかれ」を体現していたのだ。「潜れ」と。「まだまだ世に出るな」と。

もし、そのことを公表していたら?調子に乗ってしまったかもしれないし、きっと潰されていたに違いない。

 

また、「潜龍用いるなかれ」と聞いて、思い出すのは元ヤクルトスワローズの伊藤智仁投手である。当時、私は中学生ぐらいだったか。野球部の練習に精を出していたころのことである。

伊藤智仁さんはヤクルトスワローズにドラフト1で入団。なんと、新人から前半戦だけで7勝2敗、防御率0.91の驚異的な成績をたたき出したのである。1試合16奪三振を記録するなど、新人としてはモンスター級の活躍で、当時の野球少年からしたらヒーローだった。

ところが、残念なことに、7月という早い段階で肘を故障。その年は二度と投げることはなかった。3年以上経ち、なんとかカムバックするも、モンスター級の活躍はできず数年で引退してしまった。

まさに「潜龍」を大抜擢したために起きた悲劇と言えよう。

確かに力のある新人だったかもしれない。が、もう少しじっくりと、力や経験を蓄えていけば、もっと長く、活躍できた可能性のある選手だっただけに非常に残念である。

ただ、経営者として、組織を率いる側としては、これほど学べる活きた事例はないように思う。例え、力があったとしても潜龍は用いてはいけないということを。

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