今日も宮本武蔵『五輪書』からピックアップ。
「いづれも敵を追懸(おいか)くる方、足場のわるき所、亦(また)は脇にかまいの有る所、いづれも場の徳を用いて、場のかちを得るといふ心専にして、能々(よくよく)吟味し鍛錬有るべきもの也。」
(宮本武蔵『五輪書 (火の巻)』より)
どういう意味か?
戦う際は、足場など戦う場所に気を付けろということ。
そして、場の悪さを利用し、敵をそこに追い込むなどして、戦いを有利にしろということである。
これは戦う際の「ポジション取り」の重要性を説いている。
例えば、私は趣味で古武術を習っている。その際、先生と戦うと、なぜか、気づいたら隅っこや逃げ場のない所に追い詰められたりする。すると、何でもない技でも逃げ場がないので、簡単にやられてしまったりする。まさに場の悪さをうまく活用され、不利にさせられた典型的なケースである。
投資も同様に考えられる。自分の立場をよく知り、敵の立場もよく理解して戦う必要がある。
例を挙げると、ヘッジファンドや機関投資家など大きなところは、資金も豊富で情報収集も得意で圧倒的に強者に感じるかもしれない。
が、それはそれで不利な立場だったりする。彼らはお客さんの資金を使って投資をしている。となると、ファンドマネージャーなどの一存で勝手に投資先を決めづらかったりする。それなりの合理性がなければ投資できないのだ。説明責任がある。このせいで、個人投資家の意思決定スピードよりどうしても遅くなってしまう。
その点、個人投資家は自分の一存で投資先を決められるので、スピードが速い。この「立場」を活用することで、戦いを有利に運べたりする。
また、ファンドマネージャーなどは、良いパフォーマンスを出さないとクビになってしまう恐れがある。しかも、その期間は1年ごとなど、非常に短期である。
逆に、個人投資家の場合は締め切りがない。いつ買っても売ってもいい。縛りがないのである。この「立場」を活用することで有利に戦えたりする。
例えば、今はまったくダメだけど「5年後ぐらいに上がりそう」な株があったとする。その場合、一般的なファンドマネージャーは手を出しづらい。5年も待てないのである。
あるいは、すでに大手ファンドが持っている銘柄で、短期的には業績が悪くなり、株価が下がりそうだとする。保有し続ければ上がる可能性があるかもれないのだが。それでも、大手ファンドの場合、一旦は手放さなければならなかったりする。「なぜ下がる株を持ち続けるんだ!」と顧客から叱られたりするからだ。
ところが、個人投資家は他人のために投資しているのではないので、気にせず保有し続けることができる。「時間」を武器にして、長期保有していればいいのだ。これなどもまさに「立場」を活用して戦いを有利に進める考え方である。
経営だって同じだ。例えば、小さな会社と大きな会社では、「立場」が違う。必然、戦い方も変わってくるだろう。スモールな立場を有利にする戦い方もあるし、不利にする戦い方もある。
大きな会社が有利なのは豊富な資金や圧倒的知名度、歴史などである。この立場を活かして、大量生産したり、大量仕入れを行えば、コストを低くして商品を用意できたりする。圧倒的知名度があれば、勝手に向こうから人材応募が来るなど、採用がしやすかったりする。
では、小さな会社はどうすればいいか?小さいなりの立場を活用する。例えば、大量生産には向いてない商品などを扱う。顧客ごとに細かい声を聴かねばならない商品は大量生産には向いていない。必然、大手企業はやりづらい。コストが見合わないからだ。こういう立場を活用する。
知名度がなく人材採用がしづらいのであれば、接近戦ができる立場を活用する。大手企業の場合は、社長との距離が遠く、社長の声や意思が届きづらい。なかなか出世もしづらいだろう。
が、小さな会社であれば社長がダイレクトに新入社員に声をかけられたりする。熱い想いも伝えやすい。誉め言葉も届きやすいだろう。これは小さな会社の立場だからこそできる業である。
このように経営でも投資でもそれぞれ各々の「立場」をよく理解し、活用することで戦いを有利に運ぶことが大切である。